メンテナンスフリーの嘘と、本当の豊かさ
メンテナンスフリーの嘘と、本当の豊かさ
「メンテナンスフリーの床材です。」
そんな言葉を聞くと、誰だって心が惹かれる。「手間いらず」「長持ちする」「ずっと快適」——まるで夢のような響きだ。しかし、本当にそんな家がこの世に存在するのだろうか?
例えば、ツルツルピカピカのフロアー「傷も入りません、掃除もしやすくお手入れ不要です」と謳われる。確かに、表面は強い。だが、太陽の紫外線にさらされ、、気がつけばヒビが入り、剥がれ、そこから下地の醜いベニアが露出する。貼りものの床。15年、20年と経てば「そろそろ張り替えを」と業者が言い出す。それでも「メンテナンスフリー」と言えるのだろうか?
外壁のサイディングも同じ。「光触媒などによって20年ノーメンテナンス」と書かれたカタログを信じたとしても、現実には塗装コーティングが剥がれ、雨風で次第に劣化していき、目地に詰めたシーリングも劣化していく。年数が経った補修の場合その壁材はすでに生産されていない。家というのは、ただそこに建っているだけではない。太陽の光を浴び、雨に打たれ、風に吹かれ、ゆっくりと老いていく。何もせずに「いつまでも美しく、強い」なんて、そんなうまい話などはない。
メンテナンスフリーではないが壁に使われるビニールクロス。新築時はツルツルピカピカ、15年もするとジョイント部につけられたコーキング剤に埃がついてしまい。どこかうらぶれた飲み屋の壁みたいになってしまう。
設備もそう。オール電化、メンテナンスフリーなどとと謳われる——だが、ある日プツンと何の予兆もなく亡くなってしまう?「フリー」と言われながら、いつの間にか「点検推奨」と言われるものばかりだ。
だが、手をかけることで得られるものもある。
庭の木を剪定しながら、ふと気がつく。季節の移ろい。新芽の柔らかさ。樹皮の手触り。手をかけた分だけ、家は応えてくれる。床にオイルを塗れば、木目が深くなり、艶が増す。建具のお手入れ、ちょっと調整することで開閉が滑らかになり、職人の手作りなので長く使える。メンテナンスをするたびに、住む人の手の跡が残り、家はその人らしい表情を帯びていく。
家は生き物だ。何もしなければ、確実に傷んでいく。だが、手をかければ、ますます美しくなる。大切なのは、メンテナンスを「しなくていい」と思い込むことではなく、「適切に手をかける」ことだ。
「メンテナンスフリー」なんて言葉に騙されてはいけない。
家は、住まい手が育てていくものなのだから。