引き戸
昭和の大作家 池波正太郎氏の本に
「引き戸」に関しての記述があったので勝手ながら少しだけ紹介させていただきます。
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そういうことで、家の作りかた、住みかたというところの知恵が生まれ、
江戸時代から連綿としてあったわけなんだよ。
ところが今日、それを全部忘れてしまいつつある。
その一つが戸なんだ。これはぼくもさんざんかいていることだけれど、
みんなドアになったでしょう。このドアというのは西洋のものなんだ。
日本のこの狭いところの日本家屋、あるいは日本人の暮らしには向かないんだよ。
例えばここの八畳間、庭に向かっているところが二つ開いている。
そこが引き戸じゃなくてドアだったら、そこをちょっと開けろよと言った場合、
引くとドアがグーット部屋の中へ食い込んでくるわけだ。
そうすると、それでなくても狭い部屋がなおさら狭くなっちゃうわけですよ。
そのために引き戸というものが日本で発達しているんだからね。
引き戸をつくるのは面倒というかもしれない。大工の手間もかかるし、
手数も費用もドアよりかかるかもしれません。
しかしそれをつくったら、あとの使い勝手のよさ、便利さは量り知れない。
僕の家は、ドアというものは一つしかないんだ。一階便所のドアだけ。
あとは全部引き戸。玄関は無論のこと、バスルームも、二階のぼく専用の便所の戸も、
納戸の戸も、三階の物置きも全部引き戸になっている。
それは非常に面倒くさかったけど。
設計士がぼくの言うことを聞いて全部引き戸にしてくれたために、
狭い区画の中でもって、どうにか住めるということなんだよ。
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設計士さん頑張って!